今、現実に起こっているイスラエルとパレスチナの悲惨な紛争。
それに対する、明確な解答が、今回ご紹介する映画、
『キングダム・オブ・ヘブン』で描かれています。
監督はリドリー・スコット。
多くの歴史ものを撮った監督ですが、
本作は、その中でも特にメッセージ性が強いと思います。
私は今までに2000本くらいの映画を観てきましたが、
その中で、本作が一番好きです。
ですが、残念ながら興行的には成功していません。
アメリカでの評価も芳しくないのが現実です。
(理由はのちほど説明します)
アメリカでこけた理由
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのレゴラス役で、
一躍スターとなったオーランド・ブルームを主演に迎え、
リーアム・ニーソンやジェレミー・アイアンズなど名優で脇を固めた、
隙のない俳優陣。
しかし、アメリカ本土では見事にこけました。
それも、当たり前なのです。
物語は、十字軍がイスラムの英雄サラディンに負けて、
エルサレムから追い出されるという物語だからです。
よくもまあ、こんな脚本にハリウッド資本がお金を出したなぁ、
と当時の私は思いました。
しかし、製作費を回収できないほど、こけた訳ではありません。
ヨーロッパと中東でヒットし、収支的にはマイナスにならなかったようです。
真の主役はサラディン
主演のオーランド・ブルーム演ずる「バリアン」。
彼は「理想の騎士」として描かれ、とても格好いいです。
ですが、本作の真の主役はサラディンです。
演ずるのはシリアの俳優ガッサーン・マスウード。
サラディンが歴史上に登場するまでイスラム世界は十字軍にやられたい放題でした。
しかし、彼の登場で形勢が逆転します。
そして、聖地エルサレムを奪還するのです。
『キングダム・オブ・ヘブン』はその顛末を描いた映画です。
バリアンはエルサレムに籠城し、サラディンの猛攻を耐え抜きます。
そして、キリスト教徒側に有利な撤退条件を引き出します。
サラディンは、エルサレムからキリスト教徒が出ていく代わりに、
女子供や老人を含め、あらゆる人を兵士に守らせて、
責任をもってキリスト教圏まで送り届けることを約束します。
あまりに寛大な処置に、バリアンは尋ねます。
キリスト教徒はここにいるイスラム教徒を殺したのに?
『キングダム・オブ・ヘブン ディレクターズカット』/ © 20世紀スタジオ
それに対してサラディンは、答えます。
「そんな輩と一緒にするな。私はサラディンだぞ」
『キングダム・オブ・ヘブン ディレクターズカット』/ © 20世紀スタジオ
私はこのセリフに心底痺れました!
パレスチナ紛争への解答とは?
リドリー・スコット監督が、本作に込めた願いは、
相互理解と寛容さだと私は思います。
お互いを尊重し、お互いに敬意を払うこと。
象徴的なシーンは何か所かあるのですが、
その中でも、私が特に好きなシーンがあります。
エルサレムに入ったサラディンが床に彫ってあるキリスト教のシンボルに気付きます。
彼は、何事もなかったようにそのシンボルを避け、踏みつけないのです。
十字軍は確かに残虐な行いもしました。
それでも、サラディンはそれを許し互いの信仰に敬意を払うのです。
人類は「違う宗教である」という理由で戦争をしてきました。
しかし、今の世界に必要なのは、互いの信仰に敬意を払い、
尊重することなのだ、と私は監督のメッセージとして受け取りました。
まとめ
私の文章を読んで「堅苦しい映画かな?」と想われた方もいるかもしれません。
しかし、これだけ強いメッセージ性を持ちながら、
本作は歴史スペクタクルとして、迫力ある映像を提供しています。
更に、出てくる登場人物のどいつもこいつも格好いい!
サラディンもそうですがバリアンも格好いいし、その周りの人物たちも皆が魅力的です。
ただし、ご注意点が一つ。
リドリー・スコット監督作品の常なのですが、
本作にも劇場公開版と、ディレクターズカット版の二種類があります。
劇場公開版は1時間も尺を短くしているので、
大事な説明やセリフが抜けていて、理解に苦しむところがあったり、
シビラ女王(エヴァ・グリーン)の息子のシーンの全カット、
などなど、重要なシーンが切られていて、浅い映画に見えてしまいます。
DVD 版が劇場公開版になりますので、
今から観賞しようという方は、必ず Blu-ray 版を観てください!
配信などでご覧になる際も、どちらのバージョンか気を付けていただけると幸いです。
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